「物臭太郎」とか「ものくさ太郎」とか書かれています。
昔信濃の国 あたらしの郷というところに、働かず寝てばっかりの怠け者がおりました。
村人からは、「物くさ太郎」と呼ばれていました。
ものくさって最近つかいませんが、怠け者のこたです。でも怠け者!っというよりものくさと言ったほうが、なんとなく愛嬌があるように感じるのは、私だけでしょうか?
その地の地頭(鎌倉幕府や室町幕府の時代に、その領地を管理するために設置された職)も呆れてしまうほどの怠けぶりでした。
とにかく何をするのもめんどくさがりで、全部他人頼みです。
あるとき朝廷からこの郷に長夫(都にある国司の屋敷に住み込んで奉公すること)の命令が下ります。
周りの村人たちは、みんな嫌がっていきたくありません。そりゃそうですよね・・・・・ちょっと例えは違うかもしれませんが、徴兵制みたいな・・・・・
そこで、「都には綺麗な女がいっぱいいる」とか「うまい物が腹いっぱい食える」とか言ってものくさ太郎をおだて上げ、その役を努めさせることに成功したのです。
都に上洛した太郎ですが、まるで人が変わったかのように働き者になりました。
でもでも、なかなか嫁さんが見つかりません。
そこで人の勧めもあり清水寺の門前で"辻取り"(路上で女性を捕らえて連れ去り、妻などにすること)をします。辻取りってそんなことが普通に行われていたんですかねぇ・・・今で言うナンパの強烈なやつ?
たまたま通りかかった貴族の女官(宮廷に仕える女性)を見初めて妻にしようとしますが、女性は嫌がり太郎に謎かけをして逃げ去ってしまいます。
ところが太郎は、その謎かけを簡単に解いて女官の奉公先の豊前守の邸宅へ押しかけて行きました。
そこで二人は恋歌をよみあうのですが、太郎のよんだ歌が素晴らしく女官もビックリしてしまい結婚することになりました。
それにしても太郎は、恋歌をよむなんてどこで覚えたんでよう?
垢にまみれた薄汚い太郎を風呂に入れて磨き上げると、見違えるほどの美男子に生まれ変わりました!
噂を聞きつけた帝(天皇)と面会するとなんと太郎は、仁明天皇(第54代天皇)の子孫であることがわかりました。
天皇の子孫だったなんてスゲーことです。そら恋歌もよめるはずだ!
信濃の中将に任ぜられて故郷に帰ってきた太郎は、おおきな屋敷を立てて村人たちにもそれはそれは親切にして一生幸せに暮らしました。
120歳まで生きたそうです。
死後、太郎は「おたがの大明神」、女房は「あさいの権現」として祭られ人々に崇(あがめ)られました。